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アメリカ大統領選挙・投票日前夜

あと2日後に迫るアメリカ大統領選挙の様子を、アメリカ現地から、私の体験している極めてごく一部の範囲ではありますが、興奮を伝えるべくお送りしますー。

■■■ 弁護士 猿田佐世のNYだより <号外> 
              アメリカ大統領選挙・投票日前夜 ■■■
(写真および「NYだより」本編はこちら↓
          http://www.news-pj.net/npj/saruta-newyork/index.html )

投票日まであと3日という選挙前最後の土曜日、スウィング・ステート(どちらが勝つかわからない州)の一つであるペンシルバニア州に行き、オバマ・キャンペーンを覗いた。

■NYの選挙前夜
わざわざ2時間かけて隣の州まで行ったのは、「オバマの手伝いがしたくて」というよりも、「大統領選挙を体感したくて」というのが正しい。というのも、私の住むニューヨーク州は、圧倒的なBLUE STATE(民主党が強い州)であり、オバマが勝つことは明らかなため、選挙戦も激化していないし、街が選挙一色ということもない。服にオバマのバッジをつけていたり、家や店の窓に「OBAMA」の看板を掲げている建物はしょっちゅう目にするようになったけれど、普通に生活をしている分には何も変化なく、投票を呼びかけられたりポストにチラシが入っていたり、ということすら今まで一度もない。それどころか、私は、NYでマケイン支持のアメリカ人に一人たりとも出会ったことがない。もちろん、私の周りがみなリベラルであったり、オバマは若者から支持を受けていたりということもその理由としてあるだろう。が、そもそも、NYはリベラルな街であるから、マケイン支持者は自分がマケインを支持していると明らかにすることすらできずにいる、という状況である。

■オバマ・キャンペーンへ
ということで、選挙を体感するに一番手っ取り早いのはスイング・ステートに行くことである、選挙の様子が分かるのであれば何でも面白そうだ、と、5時に早起き。NY の隣の州New Jerseyのニューアーク市で他の参加者と合流し、そこから車に分乗。1時間半後、ペンシルバニア州ALLENTOWN市のオバマ・キャンペーンのボランティアセンターに到着した。(ALLENTOWN市はペンシルバニア州の東端に位置する人口10万5000人(ペンシルバニア州では3番目の大きさ)の街である。)

ボランティアセンターには、自分も何かやりたい!という人がスウィング・ステート目指して続々と全米から集合。ボランティア登録をするにも長蛇の列。州外から来た人のほうが圧倒的に多く、どこから来たの?という会話が飛び交い、みな、歴史的瞬間を支えているんだ、という興奮で会場は熱気に包まれていた。子どもから大人から、黒人白人ラテンアメリカ人などなど、まさに草の根の雰囲気の漂う会場。オバマは、公的資金を受けず、選挙資金を全て市民の寄付でまかなう方針でやってきている(逆に、マケインは公的資金を受けているので、寄付を集めることはできない)。実際、多くの市民から寄付が集まり、オバマ陣営は歴史上の最高額を集めている。日々オバマ陣営から送られてくるメールでは(私は、かつて生オバマを見に選挙演説を聴きに行ったことがあるので(→http://www.news-pj.net/npj/saruta-newyork/index.html)日々オバマ陣営からメールが送られてくる)、「5ドル(約500円)から!」と募金が呼びかけられている。選挙運動も、草の根意識を大切にしているが、ボランティアセンターでは、これがその現場なのだなあ、と実感。

陣営の雰囲気としては、オバマが今までの共和党支持州をも塗り替えたりしつつある現状で、全米での優勢が伝えられているが、それでも、2000年のブッシュ・ゴア選挙を思えばそんな事前の予想は信じられないし、全く当日まで安心はできない、というところである。みんな、興奮に包まれながら、心配している、という感じだろうか。

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*1.オバマ・ボランティアセンターの建物


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2.ボランティア・センター内部の様子

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3.ボランティア登録をする


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4.弁護士から説明を聞く。その後、かけ声をかけて気合いを入れて出発

■戸別訪問
会場でボランティア登録をすませ、一日の仕事の説明を受ける。私の仕事は、戸別訪問。4人チームで100軒くらいの家を周り、オバマサポーターが確実に投票に行けるように選挙の場所や時間、方法について説明する。回る家のリストや話す内容についての説明書、各戸に渡すリーフレットをもらってから、30人くらいでまとまって弁護士から注意事項の説明を受ける。説明の最後に、「Fired up! Ready to go!(気合いが入ってきた!さあ行くぞ!・・・オバマのおきまり文句)」と皆で気勢を上げてから市内に散らばった。なお、説明をしてくれた弁護士は、一ヶ月前に自分の事務所を閉め、その後ずっとここでボランティアをしているとのことであった。

私は、ニューアークから同じ車に乗ってきた女性たちと4人でチームを組んだ。さっそく指定された地域に行き、戸別訪問を開始。具体的には、二人ずつに分かれて、リストに載っている各家を回り、ドアをノックする。人が出てくれば、私たちはオバマのサポーターであることを説明し、相手が誰を支持しているかを聞く。迷っているようならオバマを推す。そして、当日の投票場や時間、持ち物(住所の記載のある身分証明書)が分かっているかを確認し、もしオバマのためのボランティアをしたいようなら、その旨をこちらでメモしておいて、あとで他の人からその家に連絡を入れる、という流れである。ドアをたたいた後に、出てきた人が確実にマケイン支持の場合には、会話も続かないことだし、「Have a nice day!(良い一日を!)」と言って、失礼することになる。

私たちが回った地域は、ラテンアメリカ人の多いところ、特にプエルトリコ出身の人が多いスペイン語エリアであり、英語が全く分からない人も少なくなかった。私たちがボランティア会場で渡されたリーフレットはスペイン語のものだけ(!)であり、いかにこの国がダイバーシティ(多様性)の国なのかがよく分かる瞬間であった。NYでもなく、さらにはNYの近郊でもないこの街で、こんなに多様性が豊かなのかと、私以外のチームメンバー(全員アメリカ人)も驚いていた。しかも、話をした街の人の中には、フランス語しか分からない人(西アフリカ系)もいて、チーム4人でお手上げだった場面もあった。

そもそも、リストに載っていた家は、オバマ支持者かオバマに投票する可能性が少しでもあると判断された家だけである。というのも、こういった戸別訪問はここ数ヶ月で何度も行われており、すでに以前の戸別訪問で、明確にマケイン支持であると表明している家がどこかは分かっていて、確固たるマケイン支持者はその後に意思を180度変えることは少なく、毎回訪問して対立して嫌な思いをさせること(こちらも、する)になるし、無駄な労力と時間を使うことになるし、ということでリストから外しているからである。結果として、回ったお宅は、当然オバマ支持の人が多かった。一人、オバマでもマケインでもない候補者の支持者がいたが、親切にも「この家では私以外はオバマ支持だから、他の人にこのチラシを渡しておくよ」と言ってくれた。
 一件だけ、マケイン支持者の家をノックしてしまい、スーパー不機嫌そうな女性が出てきて「毎週毎週うるさい。この家にはオバマに投票する人は一人もいないから、もう来ないで。」と怒っていた。「リストに載っちゃってるから、毎週来てしまうの。リストからあなたの家を外すように本部に伝えておくわ」というと、そうしてくれ、と言って早々にドアを閉められてしまった。

私たちが回っている間、私たちとは別に労働組合がオバマ支持で戸別訪問していたので、一日に二回訪問者を立て続けるに受けている家も少なくなかった。もう少しバッティングしないように調整できればいいのに、とも話し合ってお互いに悩んだが、しかし、まあ、あちこちの団体が自主的にこういった活動をしていること自体は草の根活動として悪いことでもないし止めることでもないので、本部にバッティングしている事実を伝えるだけにして、とりあえず、そのまま戸別訪問は続けることにした。
 私たちがノックしたところ、すぐに怒り顔で現れて、「私は、もう不在者投票でオバマに投票してきたから、お願いだから静かにして。毎週毎週もう疲れたわ。」という人にも会った。入り口に「お断り」と書いている家には誰もノックをしないので、その人もそうすればいいのだ、というのが私のチームメートの弁。しかし、ペンシルバニアの住民も、これだけの来訪者が来ては、いかにこの州が大統領選の要なのかを感じざるを得ないだろう。マケイン派にしてもオバマ派にしても、たくさんの看板を通りに出し、街のあちこちで選挙の話がなされていた。

一度、マケイン支持者が1人、やはりリーフレットを家の前に置いて回ってるのに通りすがった。長身の男性がばりっとしたグレーのスーツに身を固めてさっそうとしており、いかにも私たちの、トレーナーやTシャツ、ごちゃごちゃワイワイした雰囲気とは大違いであった。彼は、オバマサポーターが山のように活動しているのを見て、気まずそうに、早足に去っていった。
 私たちが回ったエリアは、ラテン系の住民の多いところであったためか、オバマファンが圧倒的に多く、オバマグッズを手にしながら家をノックしていると、車道の車の中から「OBAMA!!!」「頑張れ!!!」といった声援を受け、その場が一気に盛り上がる、という場面も何度もあった。

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5.戸別訪問で住民と話をしているチームメート

■この国のダイバーシティ(多様性)
ちなみに、我らが4人チームは、白人(ニューアーク市政府の住宅部門で働く公務員・31才)、アフリカ系アメリカ人(ニュージャージー州政府の財務省で働く公務員・40代後半?)、ラテンアメリカ系アメリカ人(ドミニカ共和国出身。NPO運営。ドミニカに義足の援助などをしている50才前後)、そして、どこから見ても東アジア人な私、という、「いかにもアメリカを代表しているダイバーシティ(多様性)!!!」なチームであった。これは、チームメートのアフリカ系アメリカ人女性の言葉であったが、彼女はその言葉に続けて「オバマはこんなダイバーシティを代表しているのよ!」とも。4人は全員女性であり、すばらしいチームワークで一日中楽しく過ごした。例えば、ラテンアメリカンの彼女は、やる気満々で、近くにあった床屋を通りすがるたびに、「また違うお客がいるかもしれない」といって、何度も何度も同じ床屋のドアを開けては、1時間前にはいなかったお客を見つけてはリーフレットを渡していて、その都度、他の三人は笑い転げながらその彼女を手伝ったりしていた。
 なお、この国での公務員が行う選挙活動に対する規制は(詳細は知らないが)、数年前にさらに緩められ、こうした活動を仕事時間外でやるのはまったく自由だということ。政党に関するチラシをマンションのポストの投函しただけで公務員が逮捕されている日本の状況を改めて悲しく思う。

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6.床屋をのぞく・・

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7.ノックしても誰も出てこない家には、リーフレットを置く。マケインとオバマと・・・。

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8.投票場の住所を書いて渡す。

■戸別訪問を終えて
 100件近くのドアをノックしただろうか、リストの家周りをすべて終え、元のボランティアセンターに戻り、集計(ドアをノックした数、話せた人の数、オバマ支持者の数、ボランティアに協力したいと行った人の数、投票場に行くのに手伝いが必要な人の数など)を伝えた。そして、ドーナツやコーヒーをもらって、ボランティアセンターを後にした。

 私たちの戸別訪問で、オバマ票をどのくらい増やしたのかはわからない。しかし、「投票カードをなくしてしまったから投票できない・・・」と嘆いていた人に、「投票カードがなくても身分証明書があれば投票できますよ」と説明をしたり、投票場所を知らない人に投票場を教えたことは何度も何度もあったので、その点だけからしても、選挙権の行使には少しは役に立つことができたのかもしれない。

 アメリカ・ウォッチャーの私としては、選挙を肌身で感じられた大変大変有意義な日であったが、熱烈なオバマファンのチームメートたちも、自分たちが一日かけて行ったことに大変満足したらしく、明日(日曜)もくるわ、と意気込んでいた。
 
■地域の選挙対策本部(Lehigh Valley地区)にて
最後に、その地区の選対本部に行くと、多くの人が電話かけを行っていた。オバマグッズを配っていたので、私も、「Veterans for Obama(オバマを支持する退役軍人(退役軍人はマケイン支持が多いと考えられがちである))」「Republican for Obama(オバマを支持する共和党員)」などというポスターや、バッジ、顔に貼る即席タトゥーなどをもらってきた。壁に「Latino for Obama」とあったので、私が「Japanese for Obamaはないのかなー」と言ったところ、その場がどっと笑いに包まれ、ごめんねー、と何人かに言われた。さすがにJapanese for Obamaのポスターは作っていられないだろうけれど、Asian for Obamaのポスターはあってもいいと思う。実際に、アジア系アメリカ人の多い西海岸ではそんなポスターがあるんじゃないかなあ。

■歴史的な選挙・この選挙の世界中の国への影響力・感想
 みんなが今回の選挙を「ヒストリカル(歴史的)」と言い続けるので、「何がそんなに“ヒストリカル”だと思うの?」と聞いたところ、こんなにたくさんの人、特に若い人が選挙に興味を持っているのがヒストリカルである。草の根の選挙になっているのがヒストリカルである。自分で何かをしなければと思って参加している人が多いことがヒストリカルである。黒人大統領が生まれるかもしれないのがヒストリカルである。(ブッシュ政権の後に)大幅な変化を期待できるのがヒストリカルである、など、たくさんのヒストリカルが返ってきた。

 とにかく、みなが、「歴史を変える瞬間に立ち会っている!」という気持ちで選挙の応援に駆けつけている。私は、ちょっぴりアメリカ人がうらやましかった。これだけ世界中に影響力を与えられる選挙を、みんなで本気で戦える・・・日本の選挙ももちろん大事で、それが私たちの生活を変えることは間違いないのだが、イラクだったりアフガニスタンだったり中南米だったり、そして日本にも、とてつもない影響をあたえるこの選挙に、私たち非アメリカ人は一票を投じることができない。日本に「市場を開放せよ」だとか、「憲法を変えろ」だとか言って、日本政府が政策を変更することも少なくない強い影響力をもつアメリカ政府の選挙に、私たちは投票をすることができないのである。イラク人もアフガニスタン人も自分たちの国を破壊するかもしれない、自国政府よりも自分たちの生活に対する影響力の強いかもしれない政府の選挙に一票を投じることができない。しかし、ここにいる人たちは投票して、世界中の人々の生活に影響を与えることができる。そして、それがわかっているから、選対本部で私が日本国籍であることを話しても、「この選挙は世界中に影響を与えるからね」と私に米国籍がないことなど誰も気にしない。正直に、うらやましさを感じたことを認めざるをえない。とともに、もちろん不合理さも感じた。
 また、期待できる大きな変化を目の前に、人々が自分自身がその変化を実現すべく生き生きと活動をしていることも、アメリカ人に対して、私がうらやましさを感じたもうひとつの理由であった。私が日本で選挙に関わったことがあまりないために、この躍動感を知らないだけなのかもしれないけれど、世界を、国を変えるんだ、という意気込みの下、国中からボランティアがぞくぞく集まってくる、という、そんな場面は日本の選挙ではあまりないのではないか。
 アメリカの与える世界への影響力とその政策形成に市民がかかわれる可能性、そして、日本の選挙ではあまり感じることのないこの躍動感と。その二つについて、なんともいえないうらやましさと、前者については不合理さをも、ともに感じた一日であった。

■おまけ:選挙関係あれこれ
アメリカにいても、こんなに選挙づいた一日を過ごしたのは今回が初めてであったけれど、これまでもちょくちょくアメリカ人と選挙関係のイベントをともにしたことはあった。そのひとつに、最近の公開討論がある。
 両党の候補者が決まってから直接対決の公開討論が、月に一度程度?行われるのだが、その公開討論を見るのは、街でも学生たちの間でもちょっとしたイベント?になっており、その日は「討論をみんなで見ようパーティー」があちこちで開かれる。最後の公開討論だった10月14日には、街のバーやレストランで集まって討論をテレビで見たり、私の卒業したコロンビア・ロースクールでも、カフェテリアを借り切って学生がみんなで討論を見ていた。私も友人に誘われ、彼の家で、テレビを囲んで討論を見た。
 また、9月に、コロンビア大学にオバマとマケインが来て討論会が行われたこともあり、その時は、メイン会場だけでなく、青空スクリーンがキャンパスの広場に出され、広場は何百という学生で埋め尽くされた。
 日本で、党首討論を友達と見ようという学生は全国に何人いるだろう。「討論をみんなで見ようパーティ」最近の日本で開かれたことってあるんだろうか。

(傍論だが、9月の公開討論の時、偶々私はイギリスにおりロンドン大学の寮に泊まっていた。寮の学生ホールでロンドン大学の学生がテレビの前に集まり、アメリカ大統領の公開討論をみなで見ていたのが、大変印象的であった。)
 
■ 選挙当日・・・
 さて、あと2日で選挙である。アメリカでは、当日、投票妨害がなされることが少なくなく、それを防ぐべく、当日も多くのボランティアの呼びかけがなされている。投票会場の外にボランティアが待機して皆が適切に投票できるよう監視したりするらしい。たとえば、身分証明書を見せれば投票できる(州によって違うかも)のに投票カードがないと投票できない、といわれて投票を断られたり、投票時間内なのに時間外だと言われて妨害されたりする、との話を聞いた。さらに弁護士資格者は、当日何か問題が生じたときに、電話での問い合わせに答えるというボランティアもあると聞いた。
 私自身の選挙当日の過ごし方は模索中だが、やはり夜は、投票結果を見るパーティー。何時に結果が明らかになるか、接戦の具合がわからないが、私もアメリカ人の友達とパーティーに参加する予定。選対本部からもらってきた「OBAMAタトゥー」でもつけて・・・。


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9.笑いのたえなかった仲良しチームメートと。

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10.投票所となる教会

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11.選挙対策本部の様子を外から


ペンシルバニアでは、NYにいるだけでは分からない興奮を味わうことができて、最高に満足した一日であった。これからも大統領選、そして、アメリカ・ウォッチャーを続け、面白いことを見つけ次第発信していきたい。
(→猿田佐世のNY便りhttp://www.news-pj.net/npj/saruta-newyork/index.html)

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